キャリアの邪魔をする夫

 

先日70代の女性から、
「若い頃に働きたかった。一度パートに出た時すごく楽しかったのに、夫が『俺に恥をかかせるのか?早く辞めろ!』とうるさくて半年しか勤められなかった」
という話を聞きました。
頭の回転が速くテキパキしていて、きっとデキるキャリアウーマンになっただろうなと想像させる方です。でも昭和の頃は”妻を働かせる夫は甲斐性なし”と考えられていました。当時は持てる能力を発揮できず専業主婦を強いられていた女性も多かったろうと思います。

しかし時代は変わり、共働きに抵抗ある男性は激減しました。
男性の収入が不安定という事情もありますが、女性が働くことが当たり前だという意識の変化が大きいのでしょう。
それに伴い夫の家事育児への参加も、海外に較べればまだまだ足りないとはいえ、大分協力的になってきています。

ところが最近感じるのは、男性と対等に活躍できる女性が増えた一方で、妻の足を引っ張るような行動をする夫が目立ってきたことです。
結婚後にメキメキと力をつけて出世した妻に夫の気持ちがついていけないのです。

 

夫に家事を頼む代償

Aさん(34)は、いつも夫の機嫌が悪くて辛いという主訴で来談しました。
(以下のご相談は個人が特定できないよう変更を加えてあります)

Aさんは結婚8年、夫(36)と息子(4)の3人暮らしです。
Aさんは自動車会社の営業職です。留学経験があり英語に堪能で、外国人の多い社内では通訳としても重宝されています。
留学先の大学で知り合った夫はAさんの勉強や就職を応援してくれた頼もしい存在でした。
出産後も夫の勤務先は育休が取りやすいということで、夫が3か月の育休を取ってくれ、Aさんは早めに職場復帰できました。

しかし2年ほど前から夫の様子が変わってきました。
「俺の方が家事をしている。お前は息子の世話さえロクにしない」
と文句を言うようになったのです。

 

確かに市役所勤めの夫より残業が多いAさんは、保育園の送迎を夫にお願いすることが多く、夕食の支度も平日は3:2の割合で夫が多くやってくれていました。
夫は「埃では死なない」と大らかなAさんと違い、マメで清潔好きで掃除洗濯もきちんとしないと気が済みません。
してくれることにはとても感謝しているのですが、いちいち「俺はこれをやった」と言われると「今やらなくてもいいでしょ」と反論したくなります。
それでも感謝の気持ちを表すことが大事だと思い、丁寧に「ありがとう、助かるわ」とお礼を言うよう心掛けていました。

しかし最近の夫はおかしいのです。
「そんなに仕事にハマる気持ちが理解できないよ」
「俺のことはどうでもいいんだな」
「お前は子どもがほしかっただけなんだろう?子どもが手に入ったから俺は捨てられた」
「母親にかまってもらえない息子が不憫だよ」
などと嫌味ばかり言われるようになりました。

セックスも変わりました。
もっと増やしたいと言われ、疲れている時には少しでも長く寝たいのですが、これ以上機嫌を損ねないようにと我慢して受け入れてきました。
しかし以前と内容が変わり、「セクシーな下着をつけたままやれ」「上に乗って動け」「もっと舌を使え」など体力的にもハードな要求になりました。もともと遅漏気味の夫をイカせるまでするとかなり時間もかかり、疲れ切ってしまいます。
終わった後は翌朝早く出るためにちゃんとシャワーを浴びなければならず、睡眠時間も削られます。
でも応じないとまた「俺をないがしろにする」と文句を言われるので、応じた方がまだラクだと頑張るしかありません。

先日人事から異動と昇進の打診がありました。しかしその部署は更に残業が多いところで、これ以上家事に影響を出すのははばかられます。お給料が上がるし理想的な出世コースでもあるし、何より前からやりたかった業務です。でもこれを受けたら夫がどんな顔をするかと思うと恐くて、まだ夫に言えずにいました。

 

セックスで相手を懲らしめる

Aさんの話では、夫は安定した職場ではあるものの不本意な職種で、上司との関係もうまくいっていないようです。冒険を好まない性格なので転職する気はなさそうですが、仕事の不満をAさんに八つ当たりしているように思われました。

潮「ご主人はAさんのキャリアに嫉妬しているのではないですか?」
Aさん「私もそう思うんですが、そんな風に思ったら失礼かなと。家事育児を私よりやってくれているのは事実で助かってはいるんです。感謝しています」
潮「セックスの頻度や時間が増えたのは、ストレス解消をセックスに求めているのと、もしかしてAさんの仕事の邪魔をしたい意地悪な気持ちが無意識に働いていることもあるかもしれませんね」
Aさん「うーん、そう言われると確かに・・・翌日にプレゼンや出張があるなど、大切な日の前に求められることが多くて、”なんでこんな時に限って”と嫌々応じていたんですが」

子どもをかわいがっている夫が、子の母であるAさんの不幸を願うことはもちろんないでしょうが、順風満帆に見えるAさんに対してイラッとする気持ちがどこかにあって、困らせてやりたいと無意識に思ってもおかしくはありません。

Aさん「夫に『誰のおかげで仕事に集中できてるんだ』と言われるのが一番イヤですね。『もちろんあなたが家のことをやってくれているおかげです』と答えるけど、心の中で、仕事の成功は自分の努力しかないでしょ、と吐き捨てています」

相手に不満がある時、”相手を懲らしめる道具”としてセックスを使うことが、男女ともによくあります。
わざとセックスを断りセックスレスになることで、相手に寂しさを味わわせるのです。
Aさんの夫の場合は逆に、セックスを通してAさんに心身の負担をかけることで日常の不満の代償としているように思われました。

 

自分の気持ちに素直になる

昇進を断るべきか悩んでいるAさんに、私が伝えたのはこんなことです。

 

①夫の自己実現の問題

「夫婦の問題の9割はジェンダー観に起因している」と言った心理学者もいる。
表面上は別のことで揉めていたとしても、その底にあるのは「男とは、女とはこうあるべき」という先入観で、妻が仕事で実績を上げていることが男のプライドを傷つけているのではないか。

夫が仕事でも趣味でもいいので何か自分自身の生きがいを見つけ、妻への嫉妬が自然に消えていけばい。しかしそれは夫自身の問題になるので、可能なら夫にカウンセリングを勧めてみてほしい。

 

②仕事をやりたい気持ちがあるならあきらめない

Aさんには自分の気持ちに素直に従ってほしい。
その仕事をやりたい気持ちが強いなら、夫ときちんと話し合って家庭生活との両立を目指す。子どもはいつか大きくなる。今は大変でも手がかからなくなる日は来るのだから、長い目で見ること。

自分の人生の主役は自分。夫も子どもも大切だが、今自分の夢をあきらめたら”犠牲になった”という恨みを心のどこかに残してしまうかもしれない。自分のやりたいことを追求するのはわがままではない。
ただし、今後の公私のスケジュール管理をきちんとするためには、夫と徹底的に話し合い本音を出し合うことが大切である。

 

③上手に夫を立てる

夫の方が家事育児の負担が大きいのは、今の両者の仕事形態からいってその方が合理的だからであってAさんが罪悪感を抱く必要はない。日本の平均的家庭像と少し違うからといって何も問題ない。

しかしそうは言っても、現実には夫が機嫌を損ねたままでは話し合いも進まない。
今でも感謝の気持ちを伝えてはいると思うが、更に感情をこめて大げさなくらい嬉しさを表現するとよい。
「ありがとう!ほんとに助かる!やっぱりあなたはすごいね!」とほめ殺しにしたり、
抱きついて甘えるなど身体で表現する。
男性は頼りにされていると感じることでやる気を出す。
戦略的に夫を立てることの是非はともかくとして、今は生活上の摩擦を少なくすることが最優先。
夫の凝り固まった男性優位主義の考えはこれからの人生で徐々に変えていくことにして、今は夫の気分を良くすることに徹した方が得である。

 

④セックスで我慢をしない

夫を不機嫌にしたくないからと誘いを受け入れているが、イヤイヤしているのは夫だって感じているはず。それで夫もイライラして強引なやり方になってしまっている。無理をして”早く終わらないかな”と考えながらする不毛なセックスを続けているとやがて夫への愛情もなくなってしまう。

お互い不快になる悪循環を断ち切るには、はっきりと断る勇気も必要。「明日は出張だからできないけど、週末にね」と理由と代替案を伝えれば夫も傷つかない。

 

甘え上手になろう

Aさん「甘えるのは一番苦手です・・・夫婦は対等だとずっと思ってきたし。それに今急にベタベタしたらかえって何かたくらんでると思われそう(笑)」

潮「そんなにわざとらしくならない程度にしてくださいね(笑)。でも男性はかわいらしい女性が好きなので、適度にかわいく甘える様子を見せて損はないと思いますよ」

仕事を頑張ってきた女性は甘え下手な方が多いと思います。
男性に甘えることは恥ずかしい、自分らしくないと抵抗を覚えるようですが、家族はお互いが支え合い助け合って成り立っているものです。
相手を信頼し頼りにしていることを表現する方法の一つとして、女性らしく甘えることも必要になると思います。

Aさんは異動を受け入れ、これからもっと忙しくなるから協力してほしいと夫に頼みました。
予想通り夫は文句を言いましたが、しばらくは夫に負担をかけざるを得ないこと、夫が頼りなのでどうか理解してほしいと真摯に伝えました。
幸い義母が優しい人で、時々義母が来て子どもの世話を手伝ってくれたこともあり、夫の文句は少しずつ減ってきたとのことでした。
セックスにおいては夫にハードな要求をされる前にAさんから「私はこんな風にしたい」とわざと積極的に働きかけたことで、Aさんも楽しんでいると思ってくれたのか、夫の乱暴な態度は落ち着きました。

Aさんは、
「夫は私の仕事に嫉妬しているのだろうけど、そんなこと言ったら火に油になってしまうので絶対言いません。正直、器の小さい男だなあと失望感はあるけど、今はそんなことを気にしている場合ではないので、とにかく子どもが大きくなるまでは夫に甘えるフリをしてなんとか操縦してみます」
と割り切ることができたようでした。

男のプライドは面倒くさいものです。
しかし共に暮らしていく以上、夫に反論して波風を立てるより、気持ちを逆なでしないように夫を立てながらうまく対応していく方が自分もラクになると思います。

 

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